元麻布オフィス・店舗 | 磯崎新氏設計の1棟建物
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>>LOCATION
場所は麻布十番。高級住宅街と知られる麻布エリアでありながら、古い商店や庶民的な飲食店なども多く残るこの界隈。すぐそこに六本木ヒルズなどの高層ビル群が聳え立つにもかかわらず、ここだけなぜか下町風情が多く残っていて、妙に落ち着くエリアだ。この建物は、そんな麻布十番駅を地上に出て、元麻布方向へ進むこと5分ほど。駅前の賑わいから、住宅街へシフトしていくあたりに立っていた。
>>SPACE
住宅の並びの中から、ひょこっと顔を覗かせるこの建物。設計は著名な建築家である磯崎新氏によるもの。建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞した、数少ない日本人建築家の1人だ。
建物はB1F〜4Fまでの5フロア。元々はとあるアーティストの自宅兼アトリエとして作られ、これまで長きに渡り大事に使われてきた。1FやB1Fはアトリエ・ギャラリーという雰囲気で、2Fはシンプルなワンルーム、3Fは対照的に複数の個室に分けられた住居仕様となっている。そしてこの建物の1番印象的なシーンといえば、最上階4Fの空間だろう。ドーム型の高い天井に、丸い窓。まるで古い教会建築のようなダイナミックな空間が広がっており、入った瞬間のインパクトはなかなかのものだ。1970年代となかなか古い建物だが、そのクラシックなデザインも、今となればまたいい味。床に使われる自然石などの素材使いや、自然光を巧みに使った空間の明暗演出など、古き良きこだわりと、空間作りに対する熱意も強く感じさせてくれるようなアツい建物だった。
>>HOW TO USE
住居エリアにあるため、静かで出入りの少ないクリエイティブ系の拠点や、アトリエ兼用住居などがやはりハマりそうな気もする。1Fはギャラリーや来客用などでしっかり見せつつ、他のフロアをバックオフィスや居宅として機能面をしっかりサポート。個性的な4Fだけは、趣味の遊び場や社交の場として開放する感じか。建物自体の世界観というか、パワーがすごいため、あまりガラッと模様を変えるより、この建物の良さを最大限に保存しつつ、ポイントポイントにうまくオリジナルをプラスさせていくぐらいがちょうど良さそうだ。
建物は全体的にだいぶ年季が入っているため、入居にあたって大きくアップデートが必須となるだろう。それなりの手間や投じる資金もなかなかの覚悟が必要だが、歴史的な価値やネームバリューを考えれば、惜しまずに手をかけるだの価値はこの建物には十分あるはず。磯崎氏、そして同氏と共にこの建物を作り上げた前オーナーへも敬意を払いつつ、丁寧に空間作りに挑んでいただければ、さらに新しい魅力が加わった建物になるはずだ。そうやっていつまでもこの建物が大事に保存され、これからも現役で使われていくことを、建築好きな私としては期待させて頂きたい。
EDITOR’S EYE
磯崎氏にとって、1970年代の比較的初期の作品となる。それが今でも現役で残り、この賃貸募集が出ていることの自体の価値も高いと思う。この建物を改修しつつ、新たな感性でアップデートする。次に入る方のセンスがガッツリ試される場面だが、そのぐらい慎重に、この建物と向き合って頂きたい。