神宮前オフィス|原状回復義務なしのヴィンテージマンション
EDIT
>>LOCATION
原宿・表参道カルチャーの源流である神宮前交差点を千駄ヶ谷方面へ。東郷神社を過ぎると街路樹が通りに等間隔で植えられ、季節によっては緑が生い茂る。ここを境に人通りは疎らで、自然の景色も相まってか落ち着きさえも感じられる。歩道橋を超えると坂道となり、なお車通りは忙しないが、その単調とも言える風景は、原宿エリアらしからぬ静かさのある雰囲気。そんな坂道の中腹辺り、一度見たら忘れられないほどのインパクトある外観の建物はどこか寂しげに立っていた。
>>SPACE
前回の東京オリンピックが開催された1964年に竣工したこの建物は、人気ヴィンテージマンション「ビラ」シリーズの第一作目。半世紀以上を経過しながらも、その斬新なデザインは衰えることはなく、むしろ周りに立つ築浅の建物なんかより近代的に見え、惚れ惚れしてしまうのは自分だけではないはず。
今回の募集は3Fの1R仕様区画。室内空間だけを見たら、アルミ枠のガラス窓以外は正直パッとしない、、というのが正直な感想。しかし、この空間に辿り着くまでの外観、エントランス、廊下など、そのアプローチは経年変化による風合いによって生み出された色っぽさに魅了され、それだけでも満たされてしまう。滲み出るのは、1点物のヴィンテージ品と同様に時間の経過とともにその価値を増していく存在そのもの。そんな感覚からか、室内に感じてしまう物足りなさは、こちらで何とかしたい。と思わせてくれる建物力を感じる物件だった。
>>HOW TO USE
実はこの建物、建替えの噂が絶えず、“最後かもしれない”と言われてから期間に定めを設けた契約がここ十数年続いている。それはまるで観客から送られる拍手喝采のアンコールに応えるアーティストのように、もう1曲、あともう1曲と演奏が続いている状態にも思える。とは言え、この状態がいつまで続くかは分からず、長時間に及んだ公演もそろそろ幕が下りる頃かも知れない。となれば、60年間楽しませてくれたこの建物に花道を飾らせようじゃないか。今回は1年契約で原状回復義務はなし。室内は自分たちの居心地の良さを気の済むまで追求し、この建物で過ごす残り少ない時間を1分1秒大切にして欲しい。
EDITOR’S EYE
前を通るたびに写真を撮っていたほど、個人的に大好きな建物だが、建替え計画があると知ったのはこの仕事を始めてから。だから、撮影にも気合が入った。今回はiPhoneじゃなく掲載用として一眼レフで撮影したということもあるが、過去イチ綺麗な外観の写真が撮れたのでもう一度見て頂けたら幸いだ。