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代々木上原駅の南側。コスモス通り沿いの東大駒場キャンパスをはじめ、数多くの学校が点在するこの地域は、古くから“学びの街”としての歴史を紡いできた。小中学校の脇を抜けて住宅街を進むと、コスモス通りの少し手前に、まるで内部の空間を包み隠すように、一切の装飾を排除したシンプルなファサードの建物を見つけた。
能ある鷹は爪を隠すという諺があるが、それを体現するかのように、外観からは想像できない知性をくすぐられる空間が内部に広がっていた。地上3フロア+屋上付きの4LDK一戸建て。大小様々な空間は、1Fから屋上まで突き抜ける螺旋階段や、吹き抜けを横切るキャットウォークを介してつながっている。室内を見回してまず目に留まるのは、床から天井まで伸びるたくさんのスチール製の収納棚だ。実はこれ、建物の構造体であるという。収納スペースを確保するために考え出された、狭小地ならではの技巧と言えるだろう。とはいえ、大きい空間では50㎡ほどの面積があり、ワークスペースなど、まとまった面積を必要とする空間としても使えそうだ。
小分けにされた空間ごとに用途を振り分けてみると、複数フロア特有の使いづらさはそれほど感じないのではないだろうか。たとえば1Fのエントランススペースには、ソファとテーブルを置いてお客をもてなすラウンジにしても良いかもしれない。螺旋階段脇の緑を眺められる小さな離れのような空間は、集中したい時にはもってこいの場所と言えそうだし、吹き抜けのふもとの棚に囲まれた陽当たりの良い空間にワークデスクを置けば、開放感を感じながら仕事に打ち込めることだろう。ただし、棚に置くモノによって空間の質は大きく変わりそうだ。仕事の資料はもちろん、本や雑誌から写真、音楽、絵画まで、建物の構造である棚は、あらゆるものを抱え込んでくれる。新たなアイデアを呼び起こす骨格となるようなインスピレーションで棚を埋め尽くし、この空間を創造性豊かに彩って頂ければと思う。
EDITOR’S EYE
設計は建築家ユニット「みかんぐみ」。Casa BRUTUSや新建築などでも紹介された物件だ。もともと住宅として作られたこともあり、和室や檜風呂など、オフィス環境としては特殊なアイテムが揃っていることも魅力の一つ。クリエイティブな職業柄、夜遅くまで仕事に励む人にとって、シャワーではなく檜風呂の湯船に浸かって疲れを癒し、和室の畳に寝転がって仮眠を取れることは嬉しいことだろう。もちろん、来客をもてなす応接間としても和室は有効に活用できる。一般的なオフィスでは叶わない個性的なワークスタイルを、この物件で実現して頂ければと思う。