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外苑前駅から徒歩5分。数多くのアーティストが題材とする国道246を横目に、神宮球場へ続くスタジアム通りに入ってすぐ、左に折れる。道を進むにつれて徐々にサイズダウンする建物には、ギャラリーや飲食店、美容サロンなど、小さいながらも志の高さがうかがえるショップが納まっていた。その内の一つであるフレンチレストランを1Fに抱えるビルが、今回ご紹介する物件だ。
建築家、古谷誠章氏により設計されたショップ、オフィス、アパートメントの3つの機能を内包する当ビルディング。その側壁に伸びる外部階段で2Fへ上ると、オフィスの入り口である群青色の玄関扉が顔を出す。中へ入って扉を閉めると、外部の音は聞こえなくなった。静謐さすら感じる空間内では、壁面に偏在する大小さまざまな開口からの光が、素地のコンクリートと白塗りのキャンバスに鮮やかな陰影を描いていた。約19坪のワンルーム。細長い直方体の一角にトイレと流し台をコンパクトにまとめた空間は、削ぎ落とすところのないほどにシンプルであり、洗練されていた。天井は決して高いとは言えないが、4つの壁面すべてに穿たれた開口が、視覚的な広がりを感じさせる。
この空間に、間仕切りはふさわしくないように思える。パーテーションを用いずにエリアを分ける端緒となるのは、壁の素材と窓の配置だ。たとえば、水回りを囲う白い壁をスクリーンに見立てて好みの映画を流せば、小さなソファとテーブルが似合う、来客時にも使えそうなラウンジになるだろう。自然光が直接届かない中央部分では、壁際のライティングレールから小粋なスポットライトでデスクを照らすことで、色気のある作業場を演出できそうだ。さらに通りに面する窓際からは、はす向かいの神社の緑が見渡せる。打合せスペースを配置すれば、移ろう街の色に着想を得ることもあるかもしれない。
昼は室内に光を取り込み、夜は内部のあかりを街へ放つ。その情景は、光を出し入れする“引き出し”のようでもある。 個人的には、ここで働く人にとって同じようなことが起きればと思う。スタッフや仕事仲間がきらりと光るアイデアをオフィスにもたらし、打ち合わせを経てかたちにし、世の中へ発信する。そんなアイデアを出し入れする場として、この空間を巧みに使ってもらいたい。
EDITOR’S EYE
流し台にはちょっとしたスペースがあり、IHクッキングヒーターを用意すれば簡単な料理はつくれそうだ。フリーレントが相談できるのも魅力の一つ。