EDIT
広尾駅に降り立ち、広尾散歩通りと呼ばれる商店街を抜け、聖心女子大学へ向かうように住宅街に入る。商店街から女子大までは、通学や買い物をする人でいつも同じように賑わっている。ほとんどが聖心の学生か広尾近隣に住む人だが、外国人の姿が多いのがこのエリアらしい。住宅街に入り、低層の高級マンションや邸宅の中を進んでいくと少し変わったノスタルジックな雰囲気を持つこの建物を見つけた。
コンクリートの壁はピンクに塗られている部分があり、加えて装飾が施されている。各部屋のエントランスには中世ヨーロッパにありそうなステンドグラスを使った木製のドアがつけられている。もともと居住用に作られているため靴を脱いで室内に入ると、明治時代のモダンな洋館のようなインテリアの中に、畳が設えてあり、しかもそれがしっくりと馴染んでいて面白い。細部に目をやると、電気のスイッチ周りのパネルが花の形をしていたり、造り付けの棚の天板が丸み帯びてカットされていたりと遊び心があるのがわかる。この物件をみて「室礼」という言葉を思い出した。「室礼」という言葉を調べれば様々な解説が出てくるが、要は「遊び心」や「おもてなし」の一種で、その空間で気持ちよく過ごすための工夫であると私はとらえている。この物件、実は有名建築家が設計した物件である。設計者の、入居者やここを訪れる人へ対するもてなしの心が伝わる、ぬくもりある空間だと感じた。オフィスにおいても、遊び心や、訪れる人に対するおもてなしの心は、あればあっただけ良いと思う。入居した際は、応接やミーティングを畳やキッチンでしたり、飾り棚に季節の花を絶やさず飾るなど、心の中の余裕という意味の遊びを大切にした働き方をしてみてほしい。
EDITOR’S EYE
居住用の物件ではあるが、オフィスとしての機能性や作業の導線は損なわれない間取りだと思う。できる限り手直しはせず、この物件の室礼を楽しみながら働いてほしい。